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米航空宇宙局(NASA)の探査機オシリス・レックスが小惑星ベンヌで採取した岩石試料の入ったカプセルが回収された。小惑星からの試料回収は、日本の「はやぶさ」「はやぶさ2」に続いて3例目である。
深刻なトラブルをいくつも乗り越え、2010年に小惑星「イトカワ」からの帰還と試料回収を成し遂げた「初代はやぶさ」の偉業が、「米国版はやぶさ」の成功の礎になった。米国チームは初代の取り組みを丹念に調べ、計画立案などの参考にしたという。
日本の宇宙技術と経験が、宇宙大国である米国から必要とされ、敬意を持たれたことには、大きな意義がある。宇宙に限らず、科学技術で幅広く人類に貢献し、国際社会から必要とされ尊敬される国であることは、日本の安全保障の礎となる。
初代はやぶさに続く小惑星探査では、日本のはやぶさ2と米国のオシリス・レックスの計画がほぼ同時に始動し、日米は情報交換と議論を重ねて計画を練り上げた。はやぶさ2とオシリス・レックスの成功は、日米の競争と協調の成果でもある。
小惑星の岩石試料からは、太陽系の成り立ちや、地球生命の起源に迫る手がかりが得られる可能性がある。小惑星探査は経済成長に直結する分野ではないが、初代はやぶさの偉業とはやぶさ2の成功は、日本の存在感を高めた。経済波及効果も大事ではあるが、科学技術施策の基軸には人類と国際社会への貢献を据えるべきであろう。
初代はやぶさの偉業は映画化もされ、子供たちが宇宙や科学に関心を寄せる契機になった。どんなに深刻な困難に直面しても決してあきらめず、「できることはやり尽くす」という姿勢を貫いたはやぶさチームに多くの国民が勇気づけられた。
あの感動から13年が過ぎた。日本の科学技術力は深刻な低落が続き、宇宙分野もロケット打ち上げ失敗などで沈滞ムードが漂う。初代はやぶさほどのドラマは起きなくても、各国から必要とされる技術を確立することで日本の存在感を高め、沈滞ムード打開の糸口にできる。
9月に打ち上げられた実証機「スリム(SLIM)」が挑む月面へのピンポイント着陸に、その期待がかかる。できることをやり尽くして、初代はやぶさの偉業をつなげたい。
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2023年9月28日付産経新聞【主張】を転載しています